| ぼくは今まで、二人の大切な人との別れを経験した
「親愛なる受験生へ」
受験に恋は禁物。
でもあの夏、ぼくは確実に恋をしていた。
出会いは通っていた予備校の夏期講習。
英語の授業で、たまたま隣の席に座ったのがきっかけ。
一目惚れだった。
「男のハートの位置は、好きになった女の子が教えてくれる」と何かの漫画のセリフにあったが、その時ぼくは自分のハートの位置が本当にわかった気がした。
そして、程なくして付き合うことになった。
もちろん大学受験を控えた二人なので、どこかに遊びに出かけるということはなかったが、夏の間は毎朝、授業のあるなしに関わらず一緒に予備校に行き、夜まで自習室で勉強し、一緒に帰るという日々を送っていた。
彼女はよく、「あの世でも一緒にいられるといいね」と言った。
ぼくは、「あの世?(笑)とりあえずこの世でずっと一緒にいることを目ざそうよ」といつも言っていた。
今思い返しても、勉強の支障になっていたとは思えないし、当時も「何だ、受験勉強と恋愛は両立できるじゃん」と思っていた。
そんな夏の終わり…彼女は死んだ。
交通事故だった。
人間って愚かなもので、失わないと本当の大切さに気づけない。
自分も含めて、誰もが明日死んでしまうかもしれないのに、自分や自分の大切な人がそうなるとは考えが及ばない。
ぼくは誓った。
家族、友達、恋人…すべての人に対し、「明日死んでしまうかもしれない」と思って接していこう。
「今」を大切にすべての人と接していこう。
あの世で彼女と一緒にいられることを信じて。
その後も彼女のことを忘れることはなかったけれども、時間の経過とともに、その誓いを自分は忘れていたんだな、と思わされる出来事があった。
ぼくが21歳のとき、父親が死んだ。
くも膜下出血だった。
朝、会社で倒れ、救急車で病院に運ばれた。
母親とぼくが病院に到着したときには、意識がなく、医師からは「非常に危険な状態だ」と告げられた。
出血箇所の関係で、手術をすることはできなかった。
意識のない状態が続き、24日後の未明に父は息をひきとった。
母と一緒に最期を看取り、家で寝ている11歳の弟に父の死を告げた。
今までまったく涙を見せなかった弟が泣き続けているのを見て、父は家族に自分の死を受け入れる時間を与えるために、少しでも家族のショックをやわらげるために、24日間がんばってくれたんだなと思った。
そして、父に対して「今」を大切に接することができていなかった自分を恥じた。
あのときの誓いを忘れていた自分を恥じた。
これからは絶対にあの誓いを忘れずに生きていこうと強く思った。
あれから10年、二人の死を無駄にしないために、これからもぼくは「今」を大切に生きていこうと思っている。
受験生の皆さんは、「志望校合格」を目ざして日々努力をしていることと思う。
もちろんそれは大切なことだが、気をつけてほしいのは、目標に引きずられすぎて「今」が疎かになってしまうこと。
一日一日の勉強、出会いを大切に、「今をよりよく生きること」を心がけてほしい。
最後に、ぼくが中学3年のときに父親からもらった手紙の一節を、皆さんへのメッセージとして贈ります。
卓君へ
…野球は中学最後のひと踏ん張り、悔いのないように大いに頑張ってください。
高校受験に備えて大事な夏休みと思います。
しっかり勉強してください。
野球も勉強も、向上するには特別な方法・早道はないと思います。日ごろの練習、予習・復習が本当の実力を養い身につけることになると思います。
その時、その時期にベストを尽くすことが将来に結びついてきます。
野球にベストを尽くしたら、これからは高校受験に向けてベストを尽くしてください。
よい結果を得ることは勿論大事ですが、どれだけ努力したかがより大事です。また、努力なくして本当の意味でのよい結果は得られません。
スランプもある、失敗もある。しかし日ごろの努力(練習、予習・復習)があれば必ず挽回し、乗り越えることができます。
日ごろの努力を怠れば悔いが残ります。
日頃より努力していれば、万が一良い結果が得られない場合でも、再度チャレンジしてやろうという意欲(ファイト)が沸いてきます。…頑張れ!
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